セン ヨシハル
SEN Yoshiharu
銭 偉栄 所属 松山大学 法学部 法学科 職種 教授 |
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発行・発表の年月 | 2012/08 |
形態種別 | 学術論文 |
標題 | 民法(債権法)改正と635条但書 |
執筆形態 | 単著 |
掲載誌名 | 松山大学論集 |
掲載区分 | 国内 |
出版社・発行元 | 松山大学 |
巻・号・頁 | 24(3),221-256頁 |
概要 | 民法635条但書の規定は、長い間、瑕疵による契約解除の全面的禁止を定める強行規定だと解されてきた(従来の通説)。これに対して、近年、請負人の建築した建物の基礎や主要構造部分に建物の構造上の安全性や耐久性などを欠く重大な瑕疵があり、しかもそれを除去するためには当該建物をいったん取り壊して建て替えるほかはないような場合には、民法635条但書の規定にかかわらず契約の解除を認めてもよいとの見解が有力に主張されるようになり、他方、最高裁平成14年判決は、上記のような場合に限って、建替え費用相当額の損害賠償を認めることが民法635条但書の趣旨に反しないとし、当事者間の衡平を図ってきた。このような経緯を踏まえ、民法(債権法)改正検討委員会は、「債権法改正の基本方針」(検討委員会試案)および提案要旨において、民法635条但書の規定の削除を提案した。
しかし、前掲最高裁平成14年判決は、民法635条但書の強行法規性を維持した上で、請負人が建築した建物にはその安全性および耐久性に著しく影響を及ぼす重大な瑕疵があり、かつ、それを除去するためには建て替えるほかはない場合に限って、建替え費用相当額の損害賠償請求を肯定したに過ぎない。学説もまた、建替え費用相当額の損害賠償または契約の解除の正当化根拠を、「契約目的達成不能」にではなく、「建物の無価値性」に求めているのである。したがって、検討委員会試案のいうように、近年の判例・学説の発展の理論的帰結として、民法635条但書の削除論を導き出すことはできない。 以上の理由から、私見は単に民法635条但書を削除する旨の検討委員会試案には反対し、民法635条を次のように改正することを提案したい。すなわち、民法635条但書を削除した上、同条本文を第1項とし、第2項として次の規定を追加する。 「仕事の目的物が建物その他の土地の工作物であるときは、前項の規定にかかわらず、注文者は、契約の解除をすることができない。ただし、その瑕疵により当該目的物を使用する目的を達することができないときは、この限りでない」。 |