ミョウショウ ヒロアキ   MYOSHO Hiroaki
  明照 博章
   所属   松山大学  法学部 法学科
   職種   教授
言語種別 日本語
発行・発表の年月 1998/02
形態種別 学術論文
標題 正当防衛における侵害の開始時期について
執筆形態 単著
掲載誌名 法学研究論集
掲載区分国内
出版社・発行元 明治大学大学院
巻・号・頁 (8),71-88頁
概要 正当防衛とは、「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為」をいう(刑法三六条一項)。たとえば、懐から取り出したナイフにより攻撃してきたAの急迫不正の侵害に対して、Bは、自己の身体生命を防衛するため、手拳でAを殴り倒したというような場合には、Bの行為は、刑法三六条一項に該当し、正当防衛は成立する。正当防衛が、成立する場合、「罰しない」(刑法三六条一項)とされているが、この「罰しない」という意義は、正当防衛行為は違法性阻却されると解されている。なぜなら、「不正な侵害行為に対する反撃としての正当防衛は、『正は不正に屈するには及ばず(正は不正に譲歩する必要はない)』(Das Recht braucht dem Unrecht nicht zu weichen)という基本的思想によって、早くから違法性阻却事由とされてきた」からである。この状況はドイツにおいても同様である。正当防衛行為は罰しないすなわち違法性が阻却される客観的要件として「(a)急迫、(b)不正の侵害、(c)防衛行為があげられる」が、ここでは、急迫の意義から検討する。
 急迫とは、「侵害が過去または未来に属せず現在し、または侵害の危険が間近に緊迫しており、これを排除するために反撃的に防衛行為に出る外はない緊急状態にあること」をいうものであり、「侵害(攻撃)の『急迫』性は、正当防衛が許されるのは何時から何時までか、という時間的問題を決定する」ものである。では、具体的に、侵害(攻撃)の急迫性は、何時からはじまるのであろうか。ここで、「正当防衛権には『自然権』としての側面と『緊急権』としての側面があり、その正当化もこれらの二つの面から考察しなければならない。そこで、自然権の側面においては、個人の自己保全の原理が正当化の働きをし、緊急権の側面においては、法の自己保全の原理が正当化の働きをすることになり、両者が同時に作用する」という立場からは、正当防衛の緊急権的側面から、時間的切迫性という観点が導きだせる一方で、正当防衛の自然権的側面から、個人の自己保全の原理という観点が導きだせるので、この二つの観点から侵害(攻撃)の急迫性(現在性)の開始時期について、学説・判例を検討することした。
 ドイツの通説である「予備の最終段階説」が妥当であるという結論を得た。