アキヤマ シンジ   AKIYAMA Shinji
  秋山 伸二
   所属   松山大学  薬学部 医療薬学科
   職種   教授
言語種別 日本語
発行・発表の年月 2012/02
形態種別 調査報告
標題 日本におけるマラリアの史的考究-特に11世紀の日本と現代におけるマラリア感染の対処法と治療薬-
執筆形態 共著
掲載誌名 松山大学論集
掲載区分国内
出版社・発行元 松山大学
巻・号・頁 23(6),243-256頁
著者・共著者 牧 純、増野 仁、郡司 良夫、秋山 伸二、菅野 裕子、関谷 洋志、難波 弘行、玉井 栄治、坂上 宏
概要 2006年にスタートした松山大学薬学部では,入学1年次の「薬学概論」に続いて行われる「薬学史」の授業の中で,「感染症の過去・現在・未来」は大きな主題となっている。新設の第1期生,2期生たちは,既に各研究室に配属されて,卒業研究に取り組んでいる。感染症学研究室に配属の学生たちの幾つかの研究テーマのなかに「日本における感染症の過去・現在・未来」がある。そのひとつは,日本のマラリアに関する史的研究である。日本に土着のマラリア(domestic malaria)は,文献記録から判断するだけでも,古代から20世紀後半に至るまで存続していた。現在では輸入マラリア(imported malaria)が大きな問題である。今回の論考ではまず奈良・平安の状況を考究の対象とした。平安時代,とりわけ11世紀初頭の『源氏物語』の時代におけるマラリアに焦点を当て,さらに現在のマラリア治療との比較をこころみた。当時「瘧(おこり)」と呼ばれたマラリア感染が出てくる『源氏物語』は写実的な「物語」とはいえ,基本的には虚構の世界である。その点,記録性の高いタイプの「日記」とは異なる。したがって,当時のマラリアに関する史料としては,限界があるかと思われるが,同時代すなわち11世紀前半に藤原道長の記した『御堂関白記』に関する先人の研究を適宜比較対応させながら考究した。『源氏物語』と『御堂関白記』に共通して「瘧(おこり)」の対処を加持祈祷に頼るところが興味深い。本論文では,著者らの調べた限りにおいて,マラリア患者に効果的な治療薬はなく「加持祈祷」に頼っていた時代の状況を探りつつ,現代の医学・薬学の標準的テキストに見られるマラリアの分布,生活史,症状,診断,治療などに関する記載と照らし合わせた。とりわけ,キニーネ,クロロキン,プリマキン,チンハオスウ等の治療薬については,やや詳細に記載した。医学と薬学は「迷信・信心の時代」に始まり,「経験の時代」を経て「科学・化学の現代」に至ったといわれるが,日本におけるマラリア治療に経験的に有効とされる薬の時代があったか否かは不明であり,今後検討すべき課題である。輸入マラリアに悩む現在,マラリアの「未来」についても検討中である。地球温暖化によるマラリアの北上と本邦における再定着化の危惧に関する当否はとりわけ重要な課題と考えられる。